EV"ならでは"の研究開発を!
電気モータの最大の特長は,トルク応答がエンジンの2ケタぐらい速いことである。エンジンが100msとすると,モータは1msである。しかしこのことは意外と認識されていないし,強調されることも少ない。しかし,これを活かさなければ,EVのメリットはほとんどない。逆に,電気モータの高速で正確なトルク応答を活用することによって,バラ色の未来が開ける。私はそう思うが,世の多くの人はそう思っていないのか,思っていても隠しているかである。少なくともこういうことをハッキリ言う人はほとんどいない。PNGV(The Partnership for a New Generation of Vehicles)でも,EVの高性能制御という項目はなぜか欠落している。EVS-14にもそんなセッションはなかった。
そもそも車は平行移動であるから,原理的にエネルギーは不要である。ロスの大半はタイヤの摩擦が原因である。鉄道のエネルギー効率が格段によいのは,摩擦のきわめて少ない鉄車輪と鉄レールを使うためである。ただし鉄車輪と鉄レールはよくすべる。だから,電気鉄道にはモータによる粘着制御が不可欠であり,そうやって初めてまともに走っているのである。車輪とレールの粘着特性がモータの種類や制御方式によって全く異なるということも,鉄道の世界では常識である。
EVのモータ制御は,鉄道のモータ制御に比べてもはるかに高性能である。初めからつけざるをえないのである。そこで,モータの応答は速すぎるので,人間特性との調和を妨げるという人がいる。この理屈は半分間違っている。制御系には,目標値応答特性と,外乱応答特性(閉ループ特性)とがあり,両者は独立である。簡単にいえば,人間を含んで論じるべき目標値応答と,その必要のないタイヤのすべりなどに対する応答とは別物である。しかも,両者はほぼ独立に設計可能であることも,制御の世界では常識である。
いままでのEVは,ガソリン車の代替が念頭にある。そのため,定常的な速度・トルク特性や効率マップだけが比較される。EVのエネルギー効率は決してよくない。ここにこだわっていると,ほとんど勝ち目はない。過渡特性を論じなければ,意味がない。たとえば,増粘着制御が成功すれば,ロスが半分のタイヤ用いて一充電走行距離は一気に倍となる。こういう原理的な議論をしなければなるまいと思う。
さらに,電気モータの高い制御性を活かせば,ガソリン車にはできない高度なモーション制御が可能である。前後方向の運動を対象としたトラクション制御(1次元),横方向の運動も考えたヨーレートやすべり角制御(2次元)が考えられる。前者の代表はABSであり,ガソリン車においても比較的応答の速いブレーキ系統を利用して実現されている。しかし,トラクション制御は付加ハードが必要でコスト高となり,性能も不十分である。EVであれば,モータ制御だけで高性能トラクション制御が簡単に実現できる。
4輪独立駆動にすればヨーレートそのものを制御入力とする新しい制御系が組める。4輪独立駆動は,ステアリングによって横方向の力を発生せざるをえない従来の4WDや4WSとは本質的に異なる。モータは分散配置してもコストはそれほど高くならない。インホイルモータでもよい。小型エンジンを4個使うことは非常識でも,電気モータなら多分許される。
いずれにしても,ユーザーが買いたくなる魅力を持たせないと,絶対にEVは普及しない。電気モータの速くて正確なトルク応答を活かした制御の分野に,その鍵がある。皆さん,このような,EV"ならでは"の研究開発をやりませんか!